【Cを選択】
ルディ
「コンラートのやつ、ハンカチ忘れてやんの」
アタシはソファの上にある白いハンカチを手に取った。
手触りの良い、シルクのハンカチ。つたない字で「Conrad」とマジックで名前が書いてある。
刺繍だったらまだマシなのに、マジックで書いている辺りが、ヤツの残念なところだなぁ。
レナードは客の忘れ物と聞いて慌てていた。
レナード
「マジか! 今なら追いかければ渡せるかなぁ」
ルディ
「仕方ねーな。コンラートに貸しでも作ってやるか」
アタシは開いた窓に足をかけ、小悪魔の翼を広げた。
レナード
「頼んだぜー!」
背中にレナードの声を受けながら、アタシは飛び立った。
ジョシュアとコンラートはすぐに見つけられた。
+++++
ルディ
「コンラートぉ!」
彼らの頭上から声をかけ、目の前に降り立つ。
ジョシュア
「あれ、ルディさん。どうしたの?」
コンラート
「私に用ですか?」
ルディ
「これ」
コンラートにハンカチを渡した。
マジックで名前の書いてある部分を、わざと見せるように。
コンラート
「!!!」
コンラートは恥ずかしさで顔を真っ赤にして、乱暴にハンカチを受け取った。
アタシはニヤニヤと笑い、ジョシュアは呆れた顔をしている。
コンラートは低い声で言った。
コンラート
「このことは誰にも言わないでください…!!」
ルディ
「え?? なんのことかな?? アタシ分かんないな〜www ねぇジョシュア?」
ジョシュア
「あー、うん。ハンカチのことは、誰にも言わないよ」
コンラート
「ふぐぅ…!!!」
コンラートは心にダメージを負ったようだ。
愉快愉快〜www
もっといじってやりたくなる。
ルディ
「でも、うっかり言いふらしちゃいそうだな〜! あの知的ぶってるコンラートが、こんなだっさい、マジックで名前の書いてあるハンカチを持ってる〜なんてさぁwww」
鬼の首を取ったように、いじり続ける。
コンラートは羞恥で顔を赤くしながら、アタシを睨んだ。
コンラート
「…口止めが必要でしょうか?」
ルディ
「え?」
次の瞬間、アタシはコンラートに抱きかかえられる。
しかも、お姫様抱っこで!!
ルディ
「ちょ!? コンラート!?」
コンラート
「貴女が悪いんですよ、ルディ!」
コンラートは小悪魔の翼を広げると、アタシを抱えて空へと飛んだ。
ルディ
「えええ!? ちょっと! 何してんだよ!」
ジョシュア
「コンラート!? どこに行くんだ!」
コンラート
「ジョシュア! すみませんが、今日一日は個人行動をさせて頂きます!」
ジョシュアからの返事を待たずに、コンラートはアタシを抱えて空へ飛び立った。
+++++
陸地の階の大きな公園。
コンラートはそこに降り立ち、アタシを下ろした。
ルディ
「おいおい、どういうつもりだよ」
コンラート
「言ったでしょう? 口止めが必要かと」
ルディ
「口止めって…ちょっとからかっただけじゃん。マジになるなよー」
コンラート
「………」
コンラートは俯いて黙ってしまった。
アタシは、何かやばいことをしたかと慌てる。
ルディ
「わ、悪かったって! そこまで触れてほしくないことだとは思わなかったんだよ!」
コンラート
「私も、このハンカチがダサいことくらい分かっているんです。でも、私は刺繍なんてできませんし…」
ルディ
「分かったよ! そう落ち込むなって!」
コンラート
「ですから! ルディ!」
コンラートはアタシの目を見て言う。
コンラート
「私とお揃いハンカチを買いに行きましょう!」
ルディ
「……へ?」
コンラートは、ふふんと笑う。
コンラート
「聞こえませんでしたか? 私とお揃いのハンカチを買いに行きましょう」
ルディ
「聞こえてるって! ってか、なんでそうなる!?」
コンラート
「ルディにも人には言えない秘密を作ってあげようかと思いまして」
ルディ
「それが口止めってか!?」
コンラートは高らかに笑う。
コンラート
「屈辱でしょう? この私と2人で、お揃いのハンカチを買いに行く。これはもう、デートですよ! ルディは今日一日、私と屈辱のデートをするのです! どうです? 誰にも言えないでしょう?? もしルディがハンカチの件を喋れば、私と屈辱のデートをしたことを、私の口から言いふらされる!! 完璧な口止め計画でしょう!」
メガネをクイッと上げて得意げなコンラート。
アタシはゲンナリした。
ルディ
「お前とデートとか屈辱だけどよぉ…それ自分で言ってて悲しくないのか?」
コンラート
「悲しい? 恥をかかされるよりマシですよ」
コンラートは街へと繰り出そうとする。
コンラート
「さあ。行きますよ、ルディ! お揃いのハンカチを買いに行きましょう!」
ルディ
「い、嫌だと言ったら?」
コンラート
「え?」
気まずい空気が流れる。
コンラート
「嫌だ、って…!! そんな拒否権、あるとお思いで!?」
ルディ
「いや、あるだろ」
コンラート
「私に謝罪していたではないですか! だったら口止めに付き合ってくれたって…!!」
ルディ
「誰にも言わない、って口約束でいいだろ」
コンラート
「ぐぬぬ…!!! ルディにも恥をかかせたい…!!!」
アホなコンラートめ。
どうしてもアタシに恥をかかせたいらしい。
でも…
ルディ
「まぁでも、分かったよ」
コンラート
「え!?」
ルディ
「ハンカチ、買いに行こう」
コンラート
「いいんですか!?」
ルディ
「その代わり! 絶対言うなよ? アタシとコンラートがデートして、お揃いのハンカチ買った、なんて!」
コンラート
「もちろんですよ! これは屈辱のデートなのですから!」
コンラートは不敵に笑う。
コンラート
「さあ、ルディ。私と手を繋ぎましょう」
ルディ
「はぁ!? なんで!?」
コンラート
「ふふふふふ。私と手を繋ぐ。屈辱でしょう?」
ルディ
「屈辱っつーか、普通にヤだな。恋人でもない男と、って…」
コンラート
「ふふふ! 貴女から繋がないのでしたら…!」
コンラートは私の手を握った。
ルディ・コンラート
「!」
思っていたより、コンラートの手は節っぽくって固かった。
男の手の感触に、思わずドキッとしてしまう。
コンラート
「……ルディの手って、意外と柔らかいのですね」
自分から仕掛けておいて、コンラートも私の手の感触に動揺していた。
お互い、相手を知ったことで気まずくなる。
ルディ
「変なこと言ってんじゃねーよ…」
コンラート
「ふ、ふふ…ま、まぁ! このままハンカチを買いに行きましょう!」
コンラートとアタシは、ぎこちなく歩き始めた。
+++++
陸地の階に広がる都会の街を、2人で手を繋いで歩く。
たったそれだけなのに。
どうしてこうも、落ち着かないのか…
コンラート
「ルディ…」
ルディ
「なんだよ…」
コンラート
「ハンカチ屋って、どこにあります?」
ルディ
「知るかよ…っていうか、知らずに歩いてたのかよ」
コンラート
「ま、まぁ、屈辱のデートをすることが目的ですし…」
このデート、早く終わらないかな…
めちゃ気まずくて、恥ずかしい…
そんなことを思っていたら、ギフトショップの看板が見えた。
そういえば、あそこにハンカチって置いてあったような。
アタシは…